I.実証、虚証の見分け方

　虚実の概念は体力の質的充実度を示すものさしだから、太っていてもたよりない、ウドの大木のような虚証の人もいれば、やせていてもバンと張り切った実証の人もいるわけである。では、虚実をどういうところで判断したらよいか、もう少し具体的に説明してみよう。
　まず、手をぎゅっと握りしめ、親指と人差し指のつけ根の間の筋肉にさわってみよう。パンと張りつめた感触があるはずである。これと同じような張りつめた、力強い手応えが、腹を押してみても、脈を押してみても感じとられるようなら、その人は「実証」である。実証の人は、皮膚や目の色、髪の毛につやがあり、ハリのある大きな声でしゃべり、動作もキビキビとした力強さを持っている。さらに赤ら顔で脂ぎっており、ニキビまでボツポツというような人は、同じ実証でも相当度が強いといえる。
　今度は手を開いて、先ほどと同じ場所をさわってみょう。フニャッとした張りのない感じが伝わってくるはずである。このような力のない感じが、腹にも脈にも感じられ、腹をおすとフニャツとしたよりない感じの人が「虚証」である。虚証の人は声も小さくかすれがちだし、顔色はすぐれず、皮膚は乾燥ぎみでツヤがなく、目に輝きがなく、動作も鈍くて弱々しいといった具合に、すべてが張りのない、力の落ちた状態を呈している。

　最後にもう一度、とくに力を入れずに手を握って先の場所にさわってみよう。とくに張りすぎてもおらず、フニャフニャでもない感じがするはずであるが、これと同じ中くらいの感触が、脈の状態、腹の力、顔色、声、動作などに感じとられるなら、その人は虚実間である。
　健康な人はすべて虚実間の状態であるが、病気のある人も、ときに虚実間の状態を呈することがある。このようにして、虚証、実証を確認してから、漢方薬を選ぶようにすれば、よりよい効果を得ることができます。この文中の、腹を押してみて…とありますが、これは出来れば、仰向けに横になった状態で、他の人に頼み、指２―３本そろえて、５―８ｃｍほど押し込む。実証の人は筋肉の緊張があるようにピンと張った感触を感じるでしょう。虚証の方は、まるで何処までも指が入ってゆくような、軟らかい感触を得ます。また、脈については難しく考えず手を添えるだけでOKです。それも軽く、そっと。実際には、腕間接（手首の関節）に近いとう骨の茎状突起の内側（親指側）に指をあてると拍動がふれます。その部分に示指、中指、薬指の３本をとう骨動脈の走行に沿うように並べて軽く動脈の拍動の上に置く。そして腹診断の時と同じように、ゆっくり１―２ｃｍ押し込むつもりで脈を聞きます（耳で聞くように、そうっと）。強くて堅くて血管の太さを感じる様なら、「実証」です。反対になかなか脈が触れずに、奥深いところに、弱い脈があるなら、「虚証」です。

　最近では太っているかたが虚証の場合も多いです。特に最近の若いかたたちは、体格が良いように見えても、虚証に入るかたが多いようです。また、高齢者のかたは、ほとんどが肉体的には虚証に入ります。

�@　実証タイプ

体格、体型：　骨格ががっちりしている。筋肉質が堅太り。

顔色、皮膚：　顔色が良く、皮膚につやがある。

食欲、便通：　良好

適応力：　　暑さ寒さに適応する能力が高い、疲労の回復が早い、ストレスに強いなど環境の変化に適応する能力が高く柔軟な対応ができる。

精神状態：　情緒安定、意欲的、楽観的

�A　虚証タイプ

体格、体型：　骨格が華奢。やせ型か水太り。

顔色、皮膚：　顔色が悪く、皮膚につやがない。

食欲、便通：　不調

適応力：　　暑さ寒さに敏感で適応力が弱い、疲労がなかなかとれない、ストレスに弱いなど環境の変化に適応する能力が低い。

精神状態：　神経過敏（不安感、焦燥感）、悲観的

このようにして、虚証、実証を確認してから、漢方薬を選ぶようにすれば、よりよい効果を得ることができます。

　漢方医学では養生法の基本として二つの柱があり、この二つは健康人も病人も、体質の個人差にも関係なく守るべきものであります。その一つは、自然に従うということです。万物は自然の恩恵を得て、生命は自然の力により得られます。この生命を養うには自然に還り自然に従わねばなりません。いま一つは、漢方医学では精神作用が健康に及ぽす影響を重視することです。病は気からとは真理で、健康のためには精神力を養い、気持を常に安定せねばなりません。