さまざまな薬が開発されたおかげで、多くの病気が克服されています。その反面、薬の副作用のため、病気はおさえられていても、日常生活を十分に営めないまま不自由な暮らしを強いられている人がいるのも事実です。「薬づけ」の現実：近ごろ、薬の服み合わせによる副作用が間題になっています。ある病気の治療のための薬に加え、その薬による副作用をおさえる薬を使うというようなことが、服用薬の増大をもたらしています。特に、いくつかの複合した病気をもつ高齢者は、何種類もの薬を一度に服まなければならないので、「薬づけ」になりやすいといえましょう。

   漢方薬は、からだにやさしい：ある一点の病状をおさえる西洋薬とちがって、漢方薬は、人のからだ全体を調整する薬です。しかも、長い間服んでも副作用が少なく、慢性病や成人病などにうってつけと、評価が高まっているのです。

   漢方医学は、より体質（内因）に重きをなした医学で、独特な体質医学とも言われています。漢方薬を選択するために、一番難しいのは、体質をどう見極めるかであります。これさえできれば、自由に漢方薬を使うことができます。漢方医学では、身体の部位を上、中、下の三部に大別し、上から上焦、中焦、下焦といいます。たとえば、小建中湯という処方、特に小児に使われる漢方薬ですが、「小さな子供の、中（中焦）を建て直す」という意味がふくまれています。さらに、病気の性質と状態を陰陽、虚実、寒熱に分類しています。この６つの分類のうち、特に重要なのは虚と実であります。　

＊　陰陽は対極的な考え方で、たとえば山の陰にあたる部分を陰といい、陽のあたる部分　　を陽という。これは実在ではなく、一方を陰とし他方を陽と仮定してそれらの性質と作用を比較します。一般に、陰陽はものの性質、または作用を現わします。虚実はその量についていう場合が多いととらえてよいと思います。

＊　寒熱は漢方独特の考え方で、昔は体温計など無かった、という前提で寒熱を見ます。寒熱は自覚的、他覚的に熱く感じる、または寒く感じるというものです。たとえば、体温計で４０度の熱があっても、患者が寒くてしょうがないといえば、寒であります。また反対に平温でも患者が熱くてしょうがなければ熱という。

＊　虚実、先にも書いたどうりで虚と実が、漢方ではかなり重要です。漢方の診断で一番大切なことは虚実を見分けることです。これができれば（理解できれば）漢方が自由に使えるのです。もしどうしても、虚と実が判別できぬ時は、虚か虚実間（虚と実の中間。普通の健康状態）として体質を1ランク弱と仮定して薬方薬を決定します。局所的に虚と実もあります。たとえば浮腫（むくみ）に例をとると、指で圧迫してみて、クボミが容易に元に戻る場合は実性で、いつまでも元に戻らない場合は虚性の浮腫といいます。また、体質はいつも同じではありません。昨年、実性だった方が、今年は虚性に変化しているということもよくあります。