鍼灸とは、特定の部位に鍼(針)をさすか灸をすえるという物理的刺激を加えることによって、遠く離れた部位の病気を改善する中国独自の療法である。中国の漢方医学においては、病気の分類はもっぱら病状によっており、病気の原因には関心が払われなかった。つまり、どうして病気になったかよりは、いかにして治すかに重点が置かれていた。しかも、人体の生理や病理現象を陰陽五行説などとの対比によって解釈しようとしたところから、経脈、経穴などといった考えが出、これが世界に類を見ない鍼灸治療となったのである。灸は戦国時代から用いられていたが、鍼療法は馬王堆医帛には記録がなく、前漢の中期以後に確立されたと考えられる。武帝の兄劉勝(中山王)の満城漢墓(金縷玉衣で有名)からは、実物を模したと思われる金、銀の鍼が出土している。中国では、「気」は重要な概念である。それは、人体内の経脈の中心を流れるだけでなく、外界にも広く存在し、万物の個性原理であると同時に、個別化の原理ともなる、まさに根元的なものであった。葛洪の「抱朴子」によれば、この気を体内に深く吸い込むと万病が治るとされ、その呼吸法までが書かれている。現代中国においても、気を用いた治療法が行われている。

（１）   春秋・戦国時代　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「黄帝内経」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「素問」…　主に人体の生理や病理、養生などについて述べられている。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「霊枢」…　主に鍼灸を含めた診断方法や治療法について述べられている。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（２）   後漢時代　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「神農本草経」が成立（中国最古の薬学書）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「傷寒雑病論」が成立（張仲景が著述したとされている）。傷寒雑病論は傷寒論と金匱要略の2つをまとめたものである。「傷寒論」…　主に急性感染症について述べられており、病気の合併症や誤治による変証・壊証　などの弁証にも言及されている。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「金匱要略」…主体は慢性疾患（外感病以外の内科疾患）で証候の分類に、蔵府の病機の理論を用いている。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（３）両晋、隋、唐時代：この時期中国医薬学は、全面的な発展を遂げる。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「脈経」…脈診を中心とした中国診断学学の専門書。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「諸病源候論」…当時の疾病についての、広範囲かつ詳細で正確な記載。中国の漢方医学の病理の専門書。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「新修本草」…８００種の薬物を記載。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「備急千金要方」「千金翼方」…薬物学、老人学、食事療法、予防法など。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「外台秘要方」…６８００種以上の処方を記載。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（４）宋、金、元時代　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　生産力の発展と印刷技術の進歩に伴い、大量の文献の整理・研究が行われ、異なる学術見解の下、多彩な学派が形成される。この時代の特筆すべき点として、四大医家の存在がある。四大医家とは劉河問(1110〜1200)；火と熱が疾病の主因であるとして、瀉火による治療方法（寒涼の薬剤）を用い、寒涼派と呼ばれる。、張子和（1156〜1228）；劉河間の流れを汲み、汗、吐、下の三法を活用、特に下剤による病毒の排出に重点をおき、攻下派と呼ばれる。劉河間と張子和らの治療方法は攻撃療法といわれ、その一派は劉張学派と呼ばれる。攻撃療法（瀉法）を主体とする一派と、温補療法を主体とする李東垣（1180〜1251）；攻撃療法を排し、脾胃を補い体力増進をはかる治療方針（補中益気の説）を唱えた。補土派、温補派などと呼ばれる。朱丹渓（1281〜1358）；三派の説をうけ、病気は「陽有余、陰不足」の状態であり、陰を補うことに重点を置くべきであると提唱した。養陰派と呼ばれる。李東垣、朱丹渓らの治療方法は温補療法といわれ、李朱学派を形成した。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（５）明、清時代　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　16Ｃ以前の中国の薬物学の総括。当時の先進的な薬物分類法の提起。各種の薬物知識の記述。植物学、動物学、鉱物学、天文学、化学等の各領域に貢献。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「本草綱目」成立　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（６）清王朝末期　１９１１−１９４９　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　清王朝末期から、国民党政府時代までの政府は、漢方医学を廃し西洋化一辺倒となる。しかし、病からの解放を願う大衆の素朴な想いに支えられ、中国の漢方医学はその灯を消すことはなかった。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（７）１９４９−現在　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１９４９年：中華人民共和国は成立した以降、政府が「中西医団結」の政策を打ち出し、漢方薬事業は速やかに回復と発展を遂げることとなる。その後は　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１９５０年：漢方医学と西医の結合による伝統医学発展の声明。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１９５６年：北京、上海、成都、広州の4大都市に国立中医学院設立。文化大革命により一時衰退した。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１９７９年：漢方医事業専用の補助経費を年間予算に計上。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１９８１年：漢方医学を含む伝統医学を発展させる旨が国家憲法に明記される。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１９９３年：北京、上海中医学院が中医薬大学に昇格。続いて、広州、南京、成都と昇格。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１９９９年：医師法制定。上記の様に、漢方医学は発展を遂げ、現代へと続いているのである。